SJ編集長エッセイ

WANDERLUST

初トレランレースの52歳は、
無事完走できるのか
(前編)

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初トレランレースの52歳は、
無事完走できるのか
(前編)

SJ編集長が語る徒然なアウトドア日記(のようなもの)です。 年齢の割にハードな遊びから、まったりとしたアウトドア遊びまで幅広くこなす編集長がお伝えする、(おそらく無理かもしれない)毎週連載コーナー。 あまり期待せずに、寛容な心でお楽しみください。

初トレランレースの52歳は、果たして無事完走できるのか(前編)

ランニングの魅力とは人と競うことではなく、自分と向き合えることだ。

少なくともボクにとって、走るとはそういうことだった。

ところが、なぜか突然大会にエントリーしてしまった。しかも高低差の激しい山の中を走る、トレイルランレース。いつもアップダウンの少ない公園や河川敷ばかり走っているボクが、なぜ走ったこともないトレランレースにエントリーしてしまったのか。自分でもよくわからないけど、こんな気まぐれがあるから人生は面白いのかもしれないなぁ(と、開き直るしかない)。

出場するのは白馬岩岳のスキーゲレンデを一周する、15kmのコース。スキーやマウンテンバイクコースとして有名な岩岳は、ボクにとってお馴染みの場所。

レースは30kmクラス(15kmコースを2周)が先行スタートし、続いて30分後にボクの出場する15kmクラスになる。今回、30kmクラスにはスカイランニング世界選手権の現世界チャピオン、上田瑠偉選手が参戦。スカイランニングというのは標高2000メートル以上の高山を対象にした山岳ランニングレースのことで、登り降りの高低差がより激しいレース(だそうです)。その世界チャンピオンとは、まさに雲上人。初心者のボクにとっては目を合わせることすら、はばかられる。

さて、という訳で話はいきなりレースのスタート場面へと瞬間移動する。

15kmクラスだけでも240人のエントラント。たくさんのランナーが細い林道に殺到するワケで、さぞかし殺気立っているのではと思いきや、なぜだか周囲のランナーはゆっくりとしたペースの選手が多い。殺気立つと先ほど表現したが、むしろなごやかな雰囲気でさえあった。

スタート直後から、ボクは人混みを縫うようにして一気にスピードを上げて前走者を抜いていく。明らかに力が入りすぎだ。それでも、どんどんポジションを上げていけるので、実は隠れた才能が爆発したのかという考えが一瞬頭をよぎる。

が、突然、はぁぁぁ〜という長いながい溜息をついて、ぴたりと足が止まった(ほら、やっぱりね)。

ペース配分がわからぬままに登り坂は険しさを増し、森に作られた長い階段を登る頃にはすっかり息を荒くして、まるで古代の修験者かのように他のランナーと連なり黙々と歩を進めていくのだった。

それにしてもマラソンとは違って、山の中には見物客がいないのが嬉しい発見だ。もしマラソンみたいに沿道に観客がいたら、もう少し頑張って走ってみたりするのかな。でも、みんな歩いているので、むしろ妙な連帯感まで生まれてくる気分だ。ヤァ、お互いに大変ですなぁ。道中長いのでご無理なさらないように。

やがて森を抜けて、広々としたゲレンデへ。そこから先の道は少しだけ下っていて、周りの人たちがいよいよ走り出す。先程までの連帯感はあっという間に霧散した。仕方なく気持ちを切り替えて、ボクも走ることにする(すでにレースという自覚は無くなっている)。

登り、登り、登り。豆粒のように人が連なっていく。


汗で濡れた体に風があたり、火照った体の熱を下げてくれる。爽快な気分だったが、すぐに次の登りがきて、ふたたび苦しくなる。それでも白馬岩岳の、スイスのように美しい風景のおかげか、走ることを止めたいとは思わない。苦しいけど、楽しい。気がつけば、もう山頂は目の前だ。(と、書くとあっという間だが、やはり登りは長くて苦しかった)

そして、気がつけば目前にカメラマンがいた。

ー ああ、苦しそうな写真は撮られたくない

疲れ果ててフラフラしているのに、(そして止せばいいのに)ボクはカメラに向かって手を振ろうと腕を上げた、そのほんの一瞬、呼吸が止まった(ように感じるくらい苦しかった)。

ボクの顔を見て異変を察知したカメラマンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。だが、その時にはもうすでに呼吸は元に戻っていた。

ー 今のは何だったんだ?

しばらくの間ゆっくりと歩いて、気持ちを落ち着かせる。無理は禁物だ。この先も走って大丈夫かなぁと不安になりつつも、コースは折り返しを迎えていた。

(中年ランナーによる、レース中の事故の記事が頭の片隅に浮かびながらも、後編に続く)