MIKAMI'S REPORT Vol.4

INTERNATIONAL GS TROPHY 2008

「 アメリカ人 」

第4話(全5話)


MIKAMI’S REPORT 004

MIKAMI’S REPORT Vol.4

INTERNATIONAL GS TROPHY 2008

「 アメリカ人 」

第4話(全5話)


当コラムについてSJ編集長からのちょっとしたご案内

ボクがオフロードバイク/レースの世界に足を踏み込むきっかけとなった、ある雑誌があった。FRM(フリーライドマガジン)。既存の商業誌とは一線を画し、自らの体験を通した自身の言葉で表現されるその記事一つ一つが、圧倒的な存在感を放つ雑誌だった。しかも驚くことに、ほぼ一人でこの出版を続けてきたのだ。編集長、三上勝久。今年、ついにその雑誌を休刊させることになった彼に、入れ替わるようにスタートした当ジャーナルへの参画をお願いした。まずは、その伝説的な雑誌の過去記事を紹介していこうと思う。上質なヴィンテージが時を経て魅力をますように、オフロードバイクのことなど知らない人にとっても、その冒険的なエッセンスを感じて欲しい。

モーターサイクルで行く冒険の旅に憧れていたり、あるいはすでに実行しているライダーなら、きっと知っているだろうイベントの1つが「BMW MOTORRAD INTERNATIONAL GS TROPHY」だ。ここでは、全4回にわたり、その第1回インターナショナルGSトロフィ・アフリカ大会の模様を元FREERIDE Magazine編集長の三上勝久がレポートしていく。今回は第4回(全5回)。

アメリカ人

その日の宿泊地は、これぞ砂丘! といった、高い砂丘の麓となった。そこで今日2度目のスキルチャレンジだ。

内容は、初日と同じように目印のクルマを2箇所回ってくると言うもの。違うのはリレー形式で競うということだ。使うバイクは、各チーム1台。ルマン式で第1ライダーがスタートし、以降6人全員が走ってゴールとなる。

ここで問題が出た。ドイツチームと日本チームは各1人づつリタイアしているので、同じライダーが2回乗らない限り6人にならない。ところが、それに対してアメリカチームからクレームがついた。「どのチームも、速いライダー、遅いライダーがいる。すると、ドイツと日本だけ速いライダーが2回乗ることになって不公平だ。だったら、全チーム5人で競えばいいんじゃないか」とジミーが言う。

今回の旅は、各国のライダーのメンタリティをよく知るという意味でも面白いものだった。各国のライダーそれぞれに特徴がある。

たとえば、毎朝「今日は日本チームが先頭で、次にドイツ、イタリア……」てなふうにオーダーが決まるのだけど、なぜか気がつくと、いつも先頭を走っているのはスペインチームのライダーだったり(笑)する。アメリカチームは逆に、先頭を走るはずの日でも最後尾を走っている。理由を聞いたら「先頭を走っていたら、待ち時間が増えるし、後ろでみんなを助けたほうがみんな助かるだろう?」ということだった。非常にありがたいけど、世界の警察を自負するアメリカ人らしいなあ、とも思う。
各国のチームのなかで、アメリカチームだけが事前にカリフォルニアに集まって強化合宿もやっていたらしい。彼らは本気なのだ。僕たち日本人は、どちらかと言えば今回のスキルチャレンジに対して「ビリにはなりたくないよね」くらいの意識だったと思う。そうなるのも「無理してみんなに迷惑かけるのもアレだし」みたいな。じつに日本人らしい、我々だったのである。

でも、アメリカチームは違ったわけで、クレームをつけたわけだ。当事者である日本チームとしては、アメリカチームの言っていることもわかるし、別にどっちだってよかったのだが、結局はベペが「今回のスキルチャレンジは、全員がトライすることが前提だから、アメリカチームのアイデアに従うと参加できなくなるライダーが発生するので受け入れられない」ときっぱり。アメリカ人はおなじのポーズ(両手を空に挙げるポーズね)を見せながら納得。レース開始、となった。

ジミールイス

結局、レースでは、最初に走る加地さんが最後にもう一度走ることになった。日本チームのオーダーは「あいうえお順」だ。加地さん、原さん、平野さん、松井さん、そして僕。砂漠の真ん中にバイクを並べ、レースは始まった。

残念ながら、第一ライダーの加地さんがミスコースしたようで日本チームはちょっと遅れている。でも、イタリアチームも同じようにハマっている。ラインどりはアミダくじみたいなもので、近くまで行かないとそれが正しいルートだったのかどうか、わからないのだ。

しかも、3点を直線的なルートをとると絶対にハマるような状況なのだ。だから、二番目以降に走るライダーのほうが絶対に有利。大きく迂回するようにライン取りすれば失敗しない、ということがわかってからは、みんなタイムアップしていた。
そんなレース中、既に走り終えていたジミー・ルイスが話しかけてきた。「もしよかったら、6番目はオレが走ろうか? ベペの了解はとってある」と。こちらに文句を言う理由もないので、頼むことにした。

僕が走り終わるころには、イタリアチーム、ドイツチームが大きく遅れて日本チームは3位に浮上していた。そこでジミーにバトンタッチし、そのままフィニッシュ。今回全部で6回開催されたスキルテストで最高の結果となった。ジミーは尊敬すべきライダーだし、僕も大好きだけど「どうだ、最速タイム出してやったぞ! これでベストラップ賞(そんなのないが)は日本チームのものだな」って言ってたのは面白かった。ジミー、確かにそうだけど、順位は変わらなかったんだよ(笑)。

砂丘

レースが終わってから、背後の砂丘に上ってみた。天辺まで上るのは結構大変そうだなあ、と思っていたけど、でもやはり上らないのはもったいなさ過ぎる。それに、まだ足跡のついてないきれいな表面に足跡を残しながら上っていくのは、新雪の上を歩くようで、ただそれだけで気持ちいい。裸足の足の裏に、乾いた、ちょっと冷たい砂の感触が快く感じられる。
斜面では、サンドサーフィンが始まった。誰かが、段ボールみたいなものをもってきて、砂丘から滑り降りようとして失敗して頭から落ちている。

僕の後ろから砂丘に上がってきた原クンに、写真を撮るから砂丘から飛び降りてよ、とリクエストしてみたら、フロントフリップして飛び込んだ……のだが、わずかに距離が届かず顔から地面に突っ込んだ。爆笑だ。そのあとは、ちょっとした飛び込み大会になった。平野さんも面白いポーズで空中に飛び出していく。そのうち、アメリカ人のライアン、ジョナサンなども加わった。原クンはとても体が軽くて、側転、バク転、前転なんでもアリだ。

Tembainの砂丘で飛び込み大会。身の軽い原さんはバク転でダイブしようとするが……


周囲360度、すべて砂丘、砂だけの世界だ。眼下にあるキャンプ地が、とまっているカミオンがまるでミニカーみたいに小さく見える。その向こうで、リタイアしたライダーのバイクに代わりに乗るために、スタッフのクラウディオがおっかなびっくりバイクの練習をしている。

いいなあ、地球を感じるってこんなことかなあ。そんなふうにのんびりしていられるのも、たくさんの仲間がいて、スタッフがいるからだ。

一人旅ならこうはいかないだろう。集団で走るがゆえのストレスがないわけじゃないけど、今回の旅では集団で走ることの喜びのほうがはるかに大きい。最高だなあ、本当に!

砂丘の表面を砂が流れていく。しばらくその写真を撮るのに夢中になっていたら、誰かが「食事の準備できたって!」と声をかけてくれて、僕は砂丘を下りていった。

ええ! 押し上げるの?

その翌朝は、みんなで遊んだ砂丘でバイクを押し上げる、というスキルチャレンジが待っていた。バイクを全員で押し上げ、各国の国旗にフロントを押し当て、あとは足で走って頂点につけばフィニッシュ! というものだ。

こればっかりは日本チームはまるでダメだったなあ。っていうか、僕はまるで無理だ。最後の最後に息も絶え絶えでフィニッシュした。申し訳ない。

そのあと、遅めの朝食をとって昨日きたルートを戻る道を走り始めた。幅の広い道を、左右に広く分かれて走っていく。まるで並んで飛んでいるような浮遊感が気持ちいい。

難所の小砂丘を抜けたあたりで休憩していると、昨日バイクに乗る練習をしていたクラウディオがスタッフに両肩を抱え上げられながら運ばれてきた。どうやら、左右に繰り返し交互に転倒して足首を痛めてしまったらしい。

日本チームは、手首を痛めてしまった山田さんは別として、全員快調だ。だけど、一昨日の晩に、平野さんが足がつって痛いというので、鎮痛剤を譲ってあげた。痛みがとれたらいいなあ、と。すると「三上さんのヤク、ヤバいです。足つらないんですよ! おかげで!」と凄く喜んでくれている。

いや、単なるバファリンなんだけど……とは言い出せなかった。
足をつらなくなったのは別の理由だと思うんだけど、本当のことは言わないことにしておこう。

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