MIKAMI'S REPORT Vol.2

INTERNATIONAL GS TROPHY 2008

「チームジャパン」

第2話(全5話)

MIKAMI’S REPORT 002

MIKAMI’S REPORT Vol.2

INTERNATIONAL GS TROPHY 2008

「チームジャパン」

第2話(全5話)

当コラムについてSJ編集長からのちょっとしたご案内

ボクがオフロードバイク/レースの世界に足を踏み込むきっかけとなった、ある雑誌があった。FRM(フリーライドマガジン)。既存の商業誌とは一線を画し、自らの体験を通した自身の言葉で表現されるその記事一つ一つが、圧倒的な存在感を放つ雑誌だった。しかも驚くことに、ほぼ一人でこの出版を続けてきたのだ。編集長、三上勝久。今年、ついにその雑誌を休刊させることになった彼に、入れ替わるようにスタートした当ジャーナルへの参画をお願いした。まずは、その伝説的な雑誌の過去記事を紹介していこうと思う。上質なヴィンテージが時を経て魅力をますように、オフロードバイクのことなど知らない人にとっても、その冒険的なエッセンスを感じて欲しい。

モーターサイクルで行く冒険の旅に憧れていたり、あるいはすでに実行しているライダーなら、きっと知っているだろうイベントの1つが「BMW MOTORRAD INTERNATIONAL GS TROPHY」だ。ここでは、全5回にわたり、その第1回インターナショナルGSトロフィ・アフリカ大会の模様を元FREERIDE Magazine編集長の三上勝久がレポートしていく。今回は第2回(全5回)。

散々な結果に終わった、サハラ砂漠での、砂丘初体験の数時間後。キャンプ地に荷物を下ろした僕たちは、日が傾いて少し涼しくなった砂丘に再び集まった。今度は、6km先の遺跡を目指して走り、そこでコンパスを使ったオリエンテーリングをやるのだと言う。

6km先の遺跡に続く道は、フカフカの砂丘の谷の部分を進んでいくようだった。深くワダチが掘れている。準備が遅れて、みんなを追いかけるように僕もそのワダチを走り始めた。その感触は、まるで深い泥のトレイルだった。

砂漠を走り、砂漠で食事をとり、砂漠で眠る日々

アクセルをじわじわと、しかし開けていないと進まない。開けすぎると砂を掘ってしまう。腰を引いて、リア荷重にしないとすぐにフロントがとられてしまう。ワダチのなかで左右に勝手に切れてしまうハンドルをいなしながら、固くグリップする場所で加速して砂丘を乗り切り、そして固いところで止まって道があくのを待つ。ちょっと進むだけでヘトヘトだ。息が上がる。道の先では、やはり、あっちこっちでライダーたちが埋まっていた。傾いた太陽のせいで、巻き上がる砂がシルエットになって美しい。カメラをもってこなかったことを激しく後悔した。

ただ埋まっているだけではなくて、オーバーヒートしているマシンも多かった。時折、独特のクーラントの沸騰する匂いとともに砂煙とは違う水蒸気が上がる。これは無理だろう、僕はそう思っていた。これじゃあ、どこへも行けないよ。いくらオフロードも走れるBMW F800GSとは行っても、ほとんどノーマルだから重量はかなり重い。タイヤはメッツラー・カルーTで、これは性能のいいタイヤだが、オフロード専用ってわけじゃない。おまけに空気圧も高いままだ。明日からはサハラ砂漠のなかで旅をする予定だったが、きっとキャンセルになるに違いないと確信した。こんな状態では、1km進むのに2時間くらいかかるだろうし、人間もマシンももたないだろう。

しばらく走っていると、向こうからベペが砂漠を足で走ってきた。「戻るぞ! 日が完全に暮れる前に戻るぞ! 陽が暮れたらすぐそこだって行けないぞ!」そう言いながら走っていく。明日からどうなるんだろう? 舗装路でのツーリング? アフリカまで来て? 僕はちょっとがっかりしながら、キャンプ地の方向へと、砂の中をもがきながら戻っていった。

チームジャパン

今回、日本から参加したメンバーを紹介しておこう。加地守さんは、四国は愛媛から参加のエンデューロライダーだ。ツールドブルーアイランドでの優勝経験ももつベテランで、GSトロフィ選考会もトップタイムで通過した腕前のライダーだ。埼玉から参加の原豪志さんは、子供のころからモトクロスに親しんでいたこともあって、やはり相当の腕前。原サイクルという、BMWディーラーの三代目でもある。平野郁夫さんは、富山から参加した、普段はBMWディーラーでもあるホリタオートパークで働くメカニックだ。お客さんとのツーリングの機会も多い平野さんはしかし本当に小柄で、失礼だけど「大丈夫?」って思ったほどだ。が、アフリカではタフな走りで僕らを、そして今回の全参加者から驚かれることになる。

料金所で一休み。一部を除き、面識のなかったライダー同士のチームだったが、ミラノからチュニスまでの移動の間にすっかりうち解けた。

松井勉さんは、1980年代からフリーライターとして活躍しているオフロードライダーだ。現在では、モトナビなどでオンロードバイクの試乗などを担当していることが多いが、パリ・ルカップへの参戦経験、豊富なBAJA1000参戦経験をもつ。僕も長いつきあいの「アニキ」だ。山田純さんは、二輪雑誌界の重鎮とも言える存在。モトライダーの元編集長でもあり国際A級のロードレースライダーでもある。1970年代に単身アメリカに渡り、AMAのロードレースに参戦。帰国後の1978年にはヤマハSR500改「ロードボンバー」で鈴鹿8耐に参戦、8位入賞という快挙で伝説を打ち立てたライダーだ。現在ではBMWのインストラクターとして著名だが、気さくで博識、本当に尊敬できるライダーだ。

チャレンジ

さて、砂丘群からほうほうのていで帰ってきた僕たちは、キャンプ地で遅い夕食をとっていた。夕方のオリエンテーリングによるスキルテストは結局キャンセルになった。マシンも数台オーバーヒートして、バケーションで参加していたはずのサポートメカニックも大忙しで働いている。

「明日から、ゆっくりラクな道を走ってプールで泳ぐって選択肢もある」。

ベペが夕食をとっている僕らに話しかけ始めた。

「それはそれで、ツーリングトロフィとして素晴らしい。だけど、このイベントは”GSチャレンジ”だ。だから、チャレンジをしたいって人も多いだろう。そこで、みんなにその選択をまかせたいと思う。明日からチャレンジがいいか、ツーリングトロフィがいいか、選んでくれ」。

僕らの回答は、聞かれるまでもなかった。砂漠を走る大変さはついさっき体験して、絶望に近い印象を受けたばかりだが、誰もここでギブアップ! なんてヤツはいなかった。ベペの言葉を信じる限り「今日よりはマシな道」を明日から走ることになった。僕らは三々五々、天井が布で出来ているキャンプ場のテントに潜り込み、ぐっすりと眠った。

砂丘を走る

「砂丘には、柔らかいところと固いところがある。走るのは、なるべく早い時間がいいんだ。朝のうちなら、朝露がまだ表面に残っていて締まってるからね」。

ジミー・ルイスは、とても親切に僕らに砂漠での走り方を教えてくれる。

「朝露が染みこんで、完全に乾いていない日陰の部分は固くて走りやすいんだ。だけど、日向の乾いた部分はグズグズになっていて走れない」。

僕らはそんなアドバイスを聞きながら小砂丘群を走っていく。まだ時間が早いせいもあって、昨日ほどの悲壮感はない。固い地面も多く、そこで加速して砂丘を乗り切り、また固い地面で止まって次に備えるって走りができる。だが、ラインを間違うと直角に切り立った斜面から飛び降りるハメになる。砂丘ってより砂コブって感じの小さな砂山は、風の当たる面は切り立った斜面になっていて、場所によっては1m以上もの高さから固い地面に飛び降りることになる。フロントが潜ってしまうので、ゆっくりと下りるのも難しい。遠く、前方の高い山の天辺にカミオンが止まっているのが見えた。そこまで行くってことらしい。

すごく遠く見える。そこまでの道が砂丘じゃなかったら、きっとちょっと先って感じの場所だ。だけどそこまでの斜面は完全にもう砂だけって感じで、固い部分なんてまるでなさそうだ。でも、ジミー・ルイスの行くラインのすぐそばを……彼らが通った場所は掘れているので、似たようなラインを通っていくと案外、行ける。途中で止まることなく砂丘を連続で上っていってるときの気分は最高だ。まさに無我夢中。ハードルを次々と乗り越えていく気分だ。

先に山頂に到着したライダーたちは、バイクを山頂においたまま下りてきて、埋まったライダーのヘルプをしている。ナイロンベルトをフロントフォークにかけて引っ張り出す。

「バイクは後ろから押しちゃダメだ! 砂をかぶるだけだし、バイクは前に進まない。前から引っ張らないとダメだ!」

向こうでベペが叫んでいる。僕も時々、他のライダーを押したり、また時には自分も押してもらいながら最後のガレ場を上りきって山の頂点に到着した。ぐるりとまわりを見渡すと、みんなの笑顔の向こうに360度砂だけの世界が広がっていた。

スキルテスト

そこからまた少しだけ移動したところに遺跡があった。詳しいことはわからないが、とても旧そうな岩で出来た砦だ。そこで、初めてのスキルチャレンジが行われることになった。

各チームに、進行方向を示す方位(CAP)と距離が書かれた指示書とカードが2セット渡される。コンパスを見ながら、その指示書通りに進んだ先に設置してあるポイントを発見し、そこにあるパンチでカードに穴を開けて戻ってくるというものだ。各チーム、二組に分かれてスタートする。

コンパスを覗き、砂丘を歩く。僕はとにかく暑がりなので、モトパンもブーツも脱いで、インナーブーツにサイクルパンツというちょっと人には見せられない恰好で歩く。加地さんたちは上着を脱いでいるだけだ。たいしたもんだ。2km近く、砂丘の中を歩かされた。バイクで走るのも大変だが歩くのも疲れる。いい点は、歩きなら重いバイクを引き起こす手間がないってことだ。

オリエンテーリングがつつがなく終了し、その場でランチとなった。洋梨、水、それにクラッカーと缶詰。開けた瞬間、ちょっと驚く原色の豆の缶詰は、だけどとても美味しかった。

ジミー・ルイス率いるアメリカチームの数人は、ブーツも靴も脱いで汗をかいた靴下を日に当てて乾かしている。僕もマネして乾かして、ゆっくりと日陰で食事をした。青空の……そして砂漠のまんなかで食べる食事は本当に美味しい。

地平線からラクダに乗った観光客がやってきて、ポツンと生えた立木の下で休んでいる。聞こえてくるのは風の音。そして、サラサラと流れる砂の音。

COLUMN