CHAIRING & COFFEE SYMPHONY

伊豆原生林で愉しむ静謐なるコーヒー

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伊豆原生林で愉しむ静謐なるコーヒー

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伊豆原生林で愉しむ静謐なるコーヒー

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伊豆原生林で愉しむ静謐なるコーヒー

OUTDOOR GEARZINE(アウトドアギアジン)の久冨編集長が、リバーズ製品をソロハイカー視点からとことん使いたおしてレビューするシリーズ企画の第4話目にして、最終話。 いよいよ伊豆半島の最深部に到達した氏が、巨大なブナの木のそばで、Charing & Coffeeの様子をレポートしてくれました。 チェアリングという、大自然へのミニマルなコンタクトとコーヒーの組み合わせ。違いのわかる大人の楽しみ方をお届けします。

ハイキングの醍醐味が詰まった伊豆山稜線歩道へ、大ブナに逢いに行く

ソロハイク飯として予想外に贅沢な夕食を愉しんだ翌日は、初日よりもさらに森の奥深くへと分け入り、原生林の中に佇む推定樹齢500年ともいわれる「大ブナ」に逢いに伊豆山稜線歩道を歩くのがテーマ。

伊豆半島のへそに位置する天城峠から修善寺虹の里までの西天城エリアの全長約43kmの尾根を連ねる伊豆山稜線歩道は、多くの峠やピークを通して深い原生林あり、開けた草原あり、富士の絶景ありと充実したハイキングが楽しめるロングルート。ぜひともスルーハイクでやりたいコースではあるが、それはまた次の機会に。今回はマイカーでの入山という事情からやむなく天城峠~猫越岳をピストンとなった。


日本列島のなかでも特異な自然を形成してきた伊豆半島ジオパーク

伊豆半島が、なぜこんなにも新鮮な魅力を放っているのか。それは本州の他の地域と大きく異なる地質学的な特異性にあるという。

本州を構成する3つのプレート「ユーラシアプレート」「北米プレート」そして「フィリピン海プレート」のうち、伊豆半島は本州のなかで唯一「フィリピン海プレート」上に位置している。

伊豆半島は約2000万年前、日本から数百kmも遠く南にある海底火山群だった。火山活動によって島ができ、プレートとともに北に移動し、やがて本州と衝突。そして約60万年前に、ようやく現在のような半島の形になったという。

半島となってからも約20万年前まで陸上のあちらこちらで噴火が続き、天城山や達磨山といった現在の伊豆の骨格を形づくる大型の火山が生まれた。現在でも地中の活動は続いており、プレートの動きは現在も伊豆の大地を本州に押し込み続けている。これらの標高の高い場所には多くの雨をもたらし、ブナ、アセビ、ヒメシャラ、シャクナゲなどの原生林や、ここだけしか自生していない固有種も育んできた。

こうした二重三重の地質学的特異性が、日本の中でも独特の自然環境を形成しているのだ。そんな伊豆半島は、ユネスコが定める地質学的にみて特に重要で貴重な、あるいは美しい地質遺産を含む一種の自然公園として認められた「世界ジオパーク」のひとつとして保護・教育・地域振興のプログラムが推進されている。

これほどまでに貴重な自然が大都市東京のすぐそばに鎮座していたなんて。まったくまだまだ自分は日本を知らない。もっと歩かなければ。


昨日の八丁池周辺コースと違って交通アクセスが極端に悪いこちらのルートは思った通り、人の気配がほとんどなく、静かで最高に雰囲気の良いトレイルだった。そして昨日に比べてもさらに緑は濃く、歩きはじめてすぐに風格たっぷりの巨木がそこら中に次々と現れるようになる。森に包まれながらの静かなハイキングは、大げさではなくン十万年前にタイムスリップしたかのような感覚すらしてくる。

ブナの巨木も素晴らしいが、手引頭から猫越岳までに見られる、大きく育ったアセビの森も圧巻だ。曲がりくねりながら広がった無数の枝が幽玄で怪しい雰囲気を醸し出しており、まるで西洋のおとぎ話の世界に迷い込んだかのよう。思った通り、伊豆半島ジオパークの最深部は想像をはるかに上回るほど新鮮で多彩な自然を見せてくれる。

この日、引き返すことになった猫越岳の展望台からは、遠く駿河湾や富士山までも見渡せた。変化に富んだ天然のエンターテイメントが五感を刺激する。森フェチだけでなく眺望フェチにもたまらない、このトレイルがどんなひとにもおすすめできる理由のひとつだ。


大ブナに寄り添いながら愉しむコーヒー 

ここまで何十本とブナの巨木の横を通り過ぎてきたが、そのブナだけは別格。幹の太さといい、枝の張り出し方といい、びっしりと張り付いたコケの濃さといい、見た途端それだと分かるほど、圧倒的な存在感を放っていた。

先ほども書いた通り、この日の目的地は峠でも、山頂でもない。手引頭付近にあるという1本の巨木「大ブナ」だ。正確な位置も分からないし、何か札が下がっているわけではないので素通りしてしまわないかと不安が無いわけではなかったが、結論から言うとそんな心配は無用だった。

ようやく出会えた大ブナ。周囲はこの樹木が放つオーラに気圧されているかのように開けており、上手くチェアリングさせてもらえそうな気配。早速邪魔にならないような場所を借りて、お目当てのコーヒーチェアリングの準備にとりかかった。

今日のコーヒーは、Riversのもうひとつのコーヒー抽出システム「コーヒードリッパー ケイブ リバーシブルドリッパーホルダーポンドF」の組み合わせで淹れてみた。

「コーヒードリッパー ケイブ リバーシブル」は、アウトドアでこだわりのペーパードリップを愉しむための軽量ドリッパー。柔らかいシリコン製だから、パッキングのしやすさは言わずもがな。円錐の角度が50°と少し鋭角になっているのは、抽出時によりコーヒー豆がお湯にしっかりと絡むようにという計算された角度だという。安定感という意味でも鋭角は有利だ。

”リバーシブル”という名前が示す通り、このドリッパーは裏と表で異なる「リブ(内側に刻まれた凸凹)」を備え、抽出具合を自分のこだわりで選ぶことができるという、ユニークなドリッパー。

リブの役割はフィルターペーパーとドリッパー本体の間に隙間を作り、お湯の流れをコントロールすること。より太いリブはより隙間を多く作り、抽出スピードは遅く(抽出時間が長く)なる。すると同じ淹れ方でもより苦みが強調され、酸味を抑えた抽出が可能になる。

一方でより細い長短のリブが多く配置されているパターンでは、前者よりも抽出スピードは速くなり、結果として抽出時間が短くなる。この場合は、よりさっぱりとして苦みの少ないコーヒーを淹れやすくなるのだ。

実は白状すると、リブの仕組みを知ったのはこのときが初めて。実際のところここまでこだわって毎日淹れているひとは相当のコーヒーマニアだろう。これではっきりと味の違いが出ているのかどうか、自分でもよく分からないというのが正直なところだ。

ただ、プロのバリスタの世界では抽出スピードのコントロールによる味の調整は当たり前のように行われていることは事実で、そうした自分好みの味づくりに欠かせない淹れ方の”こだわり”が、山の中で誰でもできるということそれ自体は、コーヒー好きとして嬉しいことは間違いない(こだわらなければ別にどちらかを気にしなければよいわけだし)。

唯一難点としてあげたいことがあるとすれば、シリコンという素材の特性上、ホコリが付着しやすいこと。山では砂埃、土埃、枯葉のクズが多い場所があり、濡れた布巾も使いにくいため、どうしてもゴミを取りきることができないのは衛生上少し気になるところではあった。

いずれにせよ、この軽量コンパクトでなおかつ味にこだわりたい人にやさしいドリッパーと、これまた超軽量・コンパクトな折り畳み式ドリッパーホルダー「ドリッパーホルダーポンドF」は抜群の相性で、山で本格的なコーヒーを愉しむという意味ではほとんど不満はない。

自分なら、ソロハイクで使用する前提で1杯分だけを愉しむなら「マイクロコーヒードリッパー2」(詳しくはこちらの記事を参照)を、2杯分以上淹れることがあるならば「ケイブ&ポンドF」を持っていくだろう。

大ブナのほとりで安らぎながらコーヒーを啜ると時が止まり、何ともいえない幸せに満たされる。と同時に、身もふたもない話だが、苦みや酸味といった微細な味の違いなど小さな話、そんな思いすら湧き上がってくる。


しんと張り詰めた静かな冬の森に溶け込んでいくかのような、自分が大きな地球の一部として存在しているかのような不思議な気持ち。おそらくいつものように素通りしてしまったらこの発見はなかったかも知れない。

たまにはより道して、人間には計り知れない自然の大きさのなかであえてじっと腰を据えてみるのも悪くない。

久冨保史(ひさとみ・やすし) 1976年、東京都台東区出身。一橋大学社会学部卒業。アウトドアギア(おもに登山系)のレビューサイト、OUTDOOR GEARZINE(アウトドアギアジン)主宰。ワークマン公式アンバサダー。大学卒業後、通信会社、ウェブ制作会社を経て、2014年にアウトドアギアジンを立ち上げる。近年はサイトの運営だけでなく、ギアの製作にも携わり、ワークマン社と開発したアウトドアシューズ「アクティブハイク」は、低価格ながら徹底した作り込みで、入荷と同時に完売する人気アイテムとなっている。久冨氏の半生についてお話を聞いた、THE INTERVIEWも合わせてご覧ください。

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