THE INTERVIEW 005

冒険アングラー ペスカトーレ中西 【後編】

冒険アングラー ペスカトーレ中西【後編】

THE INTERVIEW 005

冒険アングラー ペスカトーレ中西 【後編】

大学2回生のときより始めた釣魚を追い求めての海外旅。その集大成として世界最後の秘境、アマゾンへと遠征する中西氏。一生に一度の覚悟で挑む冒険は、はたして若者に何をもたらしたのか!?

アマゾン 旅から冒険へ

初めての南米遠征は2013年だった。ちょうど、大学卒業後に勤めた商社を退職し、釣り具業界に飛び込むことを決意したときだった。

「アマゾンは死ぬまでには行きたいと思っていた場所で、ちょうど自分の大好きな釣りの世界で生きていこうと決心したタイミングに行きました」

南米への遠征は、片道24時間以上の長期フライト、現地での長距離バスの移動、実際に川で釣りをする日数など、最低でも数週間の時間が必要となる。このときは、初めての各種手続き(ビザの申請や予防接種など)にも手こずり、3週間ほどの弾丸ツアーで行くこととなった。

「実は釣り業界の先輩に誘われたのがきっかけで、『乾季のラストタイミングにアタックするけど、来るか?』と言われて、『行きます!』と即答しました」

この記事を読んで冒険釣行に興味を持った方に、ここで豆知識。日本にはないが、中西氏が旅をしている東南アジアや南米には雨季と乾季があり、これを踏まえて遠征の日程を決めることが冒険の成否を握るといっても過言ではないと言う。では、どちらの時期のほうがいいのか?

「それは、狙いたい魚によります。当たり前ですけど、雨季になると川の水が増えて、乾季になるとそれが減るんですが、乾季のときには“もと”川だった場所に水が残り、三日月湖のようなものを各所につくります。その狭い範囲に魚たちが残るので、乾季のほうが魚の居場所を特定しやすいんです。でも、たとえばピライーバなど大型のナマズに出会いたいのなら、本流の水が動く雨季のほうがよかったりして……」

もはや現地ガイドのような知識の深さ。ただ、この南米への初遠征の際はなかなか苦心したと言う。

「きっと多くの方の“最初”と同じように、『行きたい!』って情熱が先行して、肝心の準備は……という感じでしたので、本当このときいろいろ教えていただいた先輩方には感謝しています」

初トライで向かったのはアマゾン川、最大の支流であるネグロ川。支流と言ってもその大きさは尋常ではなく、流量は世界第2位の大河、コンゴ川すらしのぐ。本流のアマゾン川の大きさを想像できるだろうか。
今回、会いたい相手は、トゥクナレ・アスー。ピーコックバスという英語名のほうが一般的かもしれない。まさにクジャクのような色鮮やかで美しい模様をもつ魚なのだが、その麗しさを目の当たりにするためには、この魚の砲弾のようなパワーとスピードに打ち勝たなければならない。
タイミングは乾季。ところが、このときは冷たい雨が降り続き、状況は芳しくなかった。
おまけに、慣れていないアタックスタイルが中西氏の体に影響した。

中州につくったアマゾンの野営地。寝床にはハンモックを使用する。蚊の猛攻を防ぐため、途中、手芸屋で購入したレースを蚊帳として縫い付けた。

「南米では、漁師の方にお願いして、船を出してもらうんですが、1週間分の食料や水、ガソリンなどを積み込んだら、あとはひたすら目的地の釣り場まで川を上っていきます。そこである程度釣りをしたら、今度は下りながらまた釣りをしていく。そのあいだはずっと漁師さんと一緒に川のほとりで野営します」

この途中で中西氏は高熱を出す。

それでも。一生に一度のつもりでやってきたアマゾン。出会いたい魚たちがすぐ目の前にいる状況で、中西氏は水分補給だけを続け、「それ以上、釣りを続ければ死ぬぞ!」と漁師や仲間らに制止されながらも、釣りを続けた。

生きているあいだにこれほど命を燃やすことなんてもうないかもしれない。本気でそう思った。

そして、大河の王は、命懸けで自分を追い求める若者の前にその姿を現す。

トゥクナレ・アスー。現在16種に分類されているピーコックバスのなかでも最も大きくなる種。この魚と格闘するものは皆、全身全霊を傾けることとなる。ブラックウォーター(アマゾン水系)の暴れ神。


「そうしたら、出たんですよ、僕が追い求めていたピーコックバス、アスーの大きいのが。ドカンと。もうその瞬間アドレナリン出まくりというか、キターーー!!!!という感じで。
で、キャッチして、夕方だったんですけど、太陽に向かってずっと吠えてました。アホみたいに。ガイドしてくれた漁師と抱き合って」

その冒険から8年の月日が経っても、いまなお、昨日の出来事のように彼は語った。鮮烈な人生体験とはこういうものなのだろう。


こうして、一生に一度の南米遠征は終わった。

いや、終わらなかった。終わるはずがなかった。

「いちばんの目標であるトゥクナレ・アスーには出会えたんですけど、アロワナやブラックピラニア、カージナルテトラ、野生のピラルクなどなど。ぜんぜん会いたかった魚たちの顔を見ることができなかったのが悔しくて」

満足と悔しさ、このふたつをこの男に与えてしまうとどうなるかは、すでに前編を読んでいただいた方はおわかりのとおり。その後、一生に一度のはずだった南米遠征は、ほぼ年イチ行事となり

2015年 ブラジル、ガイアナ、ベネズエラ
2016年 ベネズエラ
2017年 スリナム、ガイアナ
2019年 ウルグアイ、コロンビア
※2018年はモンゴルなどに遠征

世界がコロナ禍に陥るまで、毎年異なる魚をメインターゲットに続けられた。


ここで、ここまで読んでいただき、「いつか自分も」と思い始めた方に、中西氏が旅で出くわした危険も紹介しておきたい。

2015年のブラジルでは、野営地にアマゾンで最も危険な獣であるジャガーが現れた。

「同行者のいびきを発情したメスの鳴き声と勘違いして近づいてきたんですよね」

闇夜のなか最大級の警戒態勢をとるガイド役の漁師たち。護身用の猟銃を取り出すと、弾を込め始めた。そのようすを眺めてると、中西氏には木を削ってつくられた即席の槍が手渡された。「来たらそれで迎え撃て」。自分の身は自分で守れと言う。明け方までほぼ眠れなかった。

また、獣同様に恐ろしいのがニンゲンだ。2017年、もうだいぶ慣れたと思い始めていた4回目の遠征の最後に、拳銃強盗に遭った。それは釣りを終え、帰国に向けて街で最後の買い出しに出かけている最中だった。ポケット越しにはっきりと輪郭を現した銃の形はいまでも忘れられない。


それでも、なぜ冒険をするのか?

「僕の場合、冒険がしたくてしてるというよりは、会いたい魚に会うのに冒険をしなくてはいけない、というのが正しいんだと思います。だから、冒険家って言われるとちょっとおこがましいというか……」

そうだろうか? 世界一有名な登山家が、エベレストに挑む理由をこう答えたことは有名だ、

「Because it’s there(そこに山が”ある”から)」


魚たちだって、そこに”いる”。

だから、冒険家は行くのだ。

旅の師匠

中西氏には旅の師匠がいる。名をいたる氏と言う。10年以上にわたって各国を釣り歩いている中西氏だが、このひと回り以上、歳の離れた師匠と6年以上にわたってともに旅を続けている。どのような人物なのだろうか?

現地の人に目的の魚の聞き込みをするいたる氏。ベテランのバックパッカーであり、南米以外にもアフリカ、アジアの国々を旅している。中西氏曰く「いつもワクワクするほうを選んでくれる、旅の大先輩」。

「僕に旅人の目線を与えてくれるのがいたるさんなんです。きっと僕と一緒に遠征に行く人はみんな思ってると思うんですけど、僕って休みなく釣りをするんですよね。ひとつのターゲットを釣ったら、すぐ次!という感じで」

遠征までして魚を追い求めてきたのである、何が問題なのだろうか?

「でも、いたるさんは違うんですよ。珍しい魚も見たいけど、旅もしっかり楽しみたい。彼は釣り人ではなく旅人なんです」

ルアー釣りをしたことがある方ならばご存知だろうが、釣りは結構忙しい。明け方には出発し、細かく移動を繰り返しながら、日没まで竿を振り続ける。そんな釣りがメインの旅においても、旅自体を楽しむことを忘れないのがいたる氏なのだ。

「僕にとってはただの釣り場までの経路でも、いたるさんは旅人の目線できちんと“寄り道”をしてくれる。それが旅をおもしろくしてくれるんですよね」

たとえば、最短距離で向かうのであればタクシーを利用するのが手っ取り早い状況下。そんな場面でいたる氏は「まだ時間はあるし、地元の路線バスを利用しよう」と提案する。旅費の節約にもなるが、そのほうがよりその土地を記憶に刻めることを経験豊富なこの旅人は知っているのだ。

せっかくの旅なのだから、そのとき、その場所で、見るべきものも忘れずに。好奇心を自由に羽ばたかせる楽しさを旅のさなかに教えてくれるのが彼の師匠なのだ。

ペスカトーレ

この業界に入るときに、先輩たちに「人に覚えてもらうためにインパクトのある名前をつけろ」と言われ、中西氏は悩んだ。本当に必要なのだろうか? でも、自分で決めなければどんなリングネームをつけられるかわからない。悩んだ末に、ふと思い浮かんだ言葉があった。

ペスカドール

ウルグアイにタライーラ・アズールを追い求めた際に、案内してくれたペスカドール(漁師)。川の状況を知り尽くし、中西氏らが訪れたタイミングが最悪だと告げるが、熱心に頼み続けるふたりに動かされ、ともに幻の古代魚を追い求めてくれた。

あのアマゾンで自分をアスーに引き合わせてくれた「漁師」たちのことだ。
川と生活し、自分よりも魚に詳しかった彼ら。
彼らのようになりたいと思った。

ペスカドール中西

ちょっとカッコつけすぎだと思った。そこで

「ぺスカ…トーレ、パスタ好きだし、これでいいかなって 笑」

ペスカドール改め、ペスカトーレ中西。

このネーミングに先輩たちは大ウケし満場一致で承認された。

と、ここまでが、名前の由来を訊かれた際に”普段”答えていること。実はもうひとつこの名前には想いが込められている。

「ペスカトーレって、みなさんご存知のあの魚介のパスタですけど、言葉としては『漁師風』って意味なんです。
で、ペスカドールと名乗るのがカッコつけすぎと思ったのも本当ですけど……、
それ以上に、いつも僕らの旅をサポートしてくれる漁師たち、彼らの自然に対する造詣の深さを知っているからこそ、自分が『漁師』と名乗ることはおこがましいと思って。

だから、僕はあくまで漁師“風”

ペスカトーレでいいんです」

彼の冒険を支えてくれる世界中の漁師たち。その名前には彼らへの尊敬の念と心よりの感謝が込められている。

ペスカトーレ中西 本名、中西和樹(なかにし・かずき)。1990年、京都府出身。大阪府在住。大学のころより憧れの魚を追い求めて海外釣行を開始。これまでに釣り歩いた国はタイ、ブラジル、ガイアナ、ベネズエラ、台湾、スリナム、インドネシア、オーストラリア、マレーシア、モンゴル、韓国、ウルグアイ、コロンビア、パプアニューギニア、中国など世界15か国以上。現在は釣り具メーカー、フエルコのプロスタッフとして、自身の豊富な海外釣行経験をフィードバックした釣り竿などをプロデュース中。

にしむら 西村

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