「 コーヒーと伊豆とチェアリング(後編)」

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コーヒーと伊豆とチェアリング【後編】

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「 コーヒーと伊豆とチェアリング(後編)」
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ブナの原生林を抜け、目的地の赤城山中、八丁池へとたどり着くアウトドアギアジン・久冨氏。山のなかでしか味わえない至高の一杯を淹れるべく取り出したのは、こだわりの軽量チェアと、今回本音でレビューするリバーズのコーヒーギアたち。自然を愛する久冨氏ならではのコーヒーチェアリングの流儀をご覧ください。

アセビのトンネルを抜け、ついにたどり着いた八丁池

旅を再開。八丁池まではもうすぐ。どれだけ眺めていても飽きない雄大なブナの森を抜けると、緩やかな斜面をトラバースする1筋のトレイル。それはアセビの作り出した天然のトンネルだった。今日は短いトレイルにもかかわらず、自然の作り出す造形の奇跡に圧倒されっぱなしだ。天城恐るべし。

ほどなくして、「天城の瞳」との愛称で親しまれる八丁池にたどり着いた。周囲が八丁(一丁は約109m)あることからこう名付けられたらしいが、実際には580m程。でも想像以上に大きな湖で、事前の情報通り全面的に池は凍結し、水面はすっかり時間が止まったように動いていない。いつもなら人でにぎわう人気スポットも、この寒さでは訪れる人も少なく、ひっそりと静まり返っている。

少し離れた展望台から池の全景を眺めてみる。登りの疲れは一気に吹き飛んだ。

池についたのはまだお昼前。コーヒーを淹れ、昼食と共にくつろぐには十分な時間がある。ぼくは湖全体が見渡せる日当たりの良い場所で荷をほどき、満を持してコーヒーチェアリングの準備を始めた。

山でのとっておきのコーヒータイムを過ごすために、今回持参した選りすぐりの道具たちはざっと下のようなものたちだ。まずRiversからは、

  • スタウトエア1000
  • コーヒーグラインダー グリット
  • コーヒードリッパー ケイブ リバーシブル
  • ドリッパーホルダーポンドF
  • マイクロコーヒードリッパー2
  • ウルトラライト ハイカーマグ S & M
  • ウォールマグ シェイド


の6点。その他はコーヒー豆と、お湯を沸かすためのストーブ・ケトル、そして長時間座っても疲れにくいアウトドア・チェアだ。

チェアは背負って何時間も歩くことを考えると、できる限り軽量かつコンパクトでなければならない。かといって、経験上座面が小さく不安定なモデルでは、座り心地が気になってしまい短時間しかくつろげない。それを踏まえて普段のキャンプからちょっとした登山にも重宝しているのが、ヘリノックスのグラウンドチェア。座り心地だけでなく、より地表に近く自然に溶け込みやすい座面の低さが気に入っている。組み立ても至って簡単。コーヒーチェアリングのセットアップは難なく完成した。


自分好みの上質な豆を挽くのに欠かせない「コーヒーグラインダー グリット」

インスタントやコーヒーバッグなど、今どき山でまずまずのコーヒーを飲むことはそんなに難しいことではないかもしれない。でもどこまでいっても既成品では、自分のその日・その時の気分に合わせて、一期一会のコーヒーを楽しむことはできない。

もちろんご存じのように、コーヒーは淹れる直前に挽いた方が豆本来の鮮度や香りを楽しむことができる。だからこそ多少の重さに耐えてまで、ぼくは豆を挽くコーヒーグラインダーを持参し、その場で挽いたコーヒーにこだわるのである。そこで今回試してみたのが、Riversのコーヒーグラインダー グリット。ありそうでないマットブラックの上品なデザインがグッとくる。

上蓋を開け、今回持参した至極の一杯のためのスペシャルティコーヒー豆をホッパーの中に注ぎ入れる。疲れた身体への1杯目にはあまり重たい味ではなく、クリアでバランスのとれたものがいいということで、約15gほどを選択。

これで約1/3ほど埋まったということは、グラインダーのホッパーの大きさは、大体1回でコーヒー3杯分くらいだろう。

コーヒーグラインダーの心臓部分ともいえるブレード部分はセラミック製。べらぼうに高価な金属刃のグラインダーに比べれば切れ味は確かに劣るかもしれないが、磨耗耐性が高く、軽くて錆びない、ガシガシ洗えると、まさにアウトドアに適した材質であるとともに、摩擦熱や静電気も発生しにくく、豆本来のフレーバーを損なわず挽くことができるメリットもある。

ブレードの頭はダイヤル方式で挽き具合を粗挽き~細挽きまで細かく設定可能なノブが付いており、自分の好みをきっちりと設定することが可能。段階ごとにカチカチと手ごたえがあるので、例えば自分好みの中挽きの数字を覚えておけば、完全に締めた状態からその数字分ダイヤルを回せば常に一定の挽き具合が設定できる。

今の気分は中挽きでバランスの良い味を楽しみたい。ということで、ダイヤルを(栓を締めきってから)10クリック分ほど回した。

ハンドルは携帯するのに長すぎず、回すのに短すぎずで、バランスの良い長さだ。おまけにセラミックブレードの切れ味も上々で、耳ざわりのよい音とともにスムーズかつスピーディに挽けていく。

無心になって豆を挽くこの瞬間はコーヒー好きにとっては崇高な儀式のような時間。気持ちよい挽き心地のグラインダーを挽いていると、時にこのままずっと終わらずにいて欲しいとすら思う。

ちなみにこのハンドルの収納に使われるシリコンバンドのホルダーに関しても、某メジャーなコーヒーミルのようにブラついたりせずしっかりと固定されてくれる(写真右)。パッキングもしやすい形状で、こうした細かい部分にも丁寧な仕事と品質の高さがうかがえる。

挽いた豆は期待通り、粒度が揃い均一なサイズ感。そしてなにより後味の雑味の元となる微粉の少なさがうれしい。

今回コーヒー抽出グッズとして持ってきたギアのうち、まず最初は1杯という少ない量を手軽に作るのに最適な「マイクロコーヒードリッパー2」で抽出することにした。バージョンアップで内寸8㎝の「ウルトラライト ハイカーマグS」にも使用できるようになり、よりアウトドアでの使い勝手が向上したということで、今回このコンビを試してみる。なるほど紙のドリッパーに比べて安定性抜群、しかもステンレスメッシュは味・使い勝手もよく、この手軽さは日常用でももちろん便利だが、アウトドアでも使わない手はないだろうと思わせてくれるのに十分だった。

より本格的なコーヒーを愉しむために今回新たに用意した秘密兵器が、キャンプ用ケトルの注ぎ口に取り付けるアタッチメンだ(下写真)。これを沸騰したケトルの注ぎ口に装着すれば、精密なドリップの際に欠かせない「細く長いお湯」を注ぐことができる。

まずこの注ぎ口からコントロールされた少量の湯を注ぎ、30秒ほど蒸らす。それが終わって慎重に、そして丁寧に細いお湯を、これも予め温めておいたカップの中に注いでいく。

ただ外での抽出では風の影響でどうしても中心にお湯が落とせない場合が多いので、細かいこだわりは捨てるという割り切りも必要だ。また寒い屋外ではすぐにコーヒーが冷めてしまうので、最終的に淹れた後、軽く温め直してもいいだろう。


静かな時間が流れる池を眺めながら、至高の一杯を愉しむ

時が止まったかのような山奥の凍った湖のほとりで、たった一人椅子に座り、1杯のコーヒーを喉に通す。熱が自分の中に吸収されていくのがダイレクトに伝わってくる。鼻からふわりと抜けていく香り、口の中に広がる豊かな深い味わい。すっきりとした後味。アウトドアで淹れる以上、決して正確な分量や時間がきっちりと測れた分けではない。でもそんな細かなブレなどはこの爽快感の下ではまったくといっていいほど気にならない。

自分好みの豆で、自分好みの量と挽き具合で、そして自分好みの淹れ方で、それを自分だけの場所で楽しむ。旅の醍醐味としてこれ以上の贅沢があるだろうか。今回持参したコーヒーグッズの何が素晴らしいって、それぞれが美味しさを追求するのはもちろんだが、何よりもこうしたユーザーの「こだわりに応えてくれる」ための機能を細やかに備えていることではないだろうか。このコーヒーグッズたちは、旅のどんな状況にも応える用意ができている。

手元にはコーヒー、そして目の前には自然の描く絵画のような景色。ちなみにこの日は風が少なかったものの、冬のアウトドア・チェアリングは寒さが尋常ではないので、当然防寒着は十分すぎるほど慎重に備えておこう。

かくしてこれ以上ないロケーションで、しばし時を忘れて心地よい時間に身を任せてみた。

目の前は何も変わらない。何も起きない。でも満足なのだ。

いや正確にいうと、何も起きていない訳ではない。雲は流れ、草は揺れ、鳥は空を舞い、氷の湖面には陽の光が眩しく映る。普段ならば見落としてしまうはずの、無数の些細な出来事が、心の隙間をきめ細かく埋めてくれ、豊かに満たしてくれる。あれ、こんなにキモチよかったの?

いつものハイキングならば、1カ所に長居することはそうそうない。たいていは予定を詰め詰めにしてしまっているのでそんな余裕はないからだ。誰かと一緒であれば気を遣うかもしれないので、なおさらそうしたチャンスは少ない。

だが、そうしたいつもの歩き方をいったん忘れ、いつもならばもったいないというくらいの時間的な余裕をもったコース設定で、好きな場所で、好きなだけのんびりする。それがこんなにも豊かで、贅沢なものとは思ってもみなかった。

ピークではなく、座る場所を求めて歩く旅。いつもより少しだけ重荷を背負う覚悟はいるが、それを上回る発見と充足感がきっとあるはずだ。

しばらく椅子に座ったまま至福の時間を堪能していると、池から突然聞こえてくる「音」に気づかされた。湖の底から、風の音と金属を叩いた音が混じったような、なんとも不思議な、聞いたことのない音が、不規則なタイミングで聞こえてくる。

帰って調べてみると、この音は池や湖が完全凍結するまでのごく短い間に聞かれ、湖全体に張った氷が寒暖差によって膨張・収縮する際に起きる何らかの変化によって出ているのではないかと言われているらしいが、正確なメカニズムなどは分かっていないとか。

その時は、その音の正体など知るわけもない。というよりも、あまりその正体自体には関心がなかった。ただただ自然の生み出す小さな奇跡に出会えたことに感謝して、そろそろ明日に備えてこの場を去ることにした。

今夜はキャンプ場に泊まり、明日は伊豆山稜線歩道に棲む、より濃密なブナの原始林のなかでコーヒーをいただく予定だ。

久冨保史(ひさとみ・やすし) 1976年、東京都台東区出身。一橋大学社会学部卒業。アウトドアギア(おもに登山系)のレビューサイト、OUTDOOR GEARZINE(アウトドアギアジン)主宰。ワークマン公式アンバサダー。大学卒業後、通信会社、ウェブ制作会社を経て、2014年にアウトドアギアジンを立ち上げる。近年はサイトの運営だけでなく、ギアの製作にも携わり、ワークマン社と開発したアウトドアシューズ「アクティブハイク」は、低価格ながら徹底した作り込みで、入荷と同時に完売する人気アイテムとなっている。久冨氏の半生についてお話を聞いた、THE INTERVIEWも合わせてご覧ください。

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